羽田空港の国際便増便のため、新しい飛行ルートの運用が決まった。来春からは一部の旅客機が都心の上空を飛ぶことになる。来年の東京五輪・パラリンピック開催に間に合わせる形で、訪日外国人客の受け入れ拡大に向けた空港の能力増強が目的。「観光の活性化につながる」と旅行業界から歓迎の声が上がる一方、騒音や落下物の懸念など、新ルート沿いの住民らの反対は根強い。(天野健作)
■「重大事故の懸念」
「新ルートは人口密集地の都心を貫くため、重大事故のリスクが懸念される」。地元住民らでつくる「羽田問題解決プロジェクト」の大村究(きわみ)代表は8日に開いた記者会見でこう訴えた。
東京都港区の武井雅昭区長は同日、「区民からは依然として落下物や騒音などに対する不安の声が寄せられており、情報の周知が十分ではないと考えている」とコメント。3月の議会で「国の説明不足で新ルート案は容認できない」との決議を可決していた品川区も13日、「国に対し、ルートを固定化することのない取り組みの確実な実行を強く求めていく」と不信感をにじませる見解を出した。
一方で、小池百合子知事は「(五輪・パラの)東京大会の円滑実施のため空港の機能強化は極めて重要。引き続き騒音・安全対策を求める」とコメント。賛成側に傾きつつも国への要望をはっきりと打ち出した。
■経済波及効果も
新しい飛行ルートは、南風が吹く日の午後3時から7時の間に限定して活用。都内では、新宿区で高度約千メートル、渋谷区約700メートル、品川区約300メートルの上空を通る。乗客の眼下には高層ビルが林立する都心の姿が広がるという。
現在の国際線(昼間)の発着回数は年間約6万回だが、新ルートの運用で約3万9千回増える。1時間に最大44便が通る計算だ。国土交通省の試算では、経済波及効果は約6500億円に上り、旅行会社の一つは「旅行者の増加につながるため、大いに期待している」と前向きに捉えている。
国は5年前にすでに新ルートの計画を公表、住民説明会なども繰り返し開き、理解を求めてきた経緯がある。8月7日には3年ぶりとなる地元自治体との協議会を開催。秋以降にも関係自治体での説明会を再度行うことも検討しているという。
■騒音対策は
問題は騒音対策だ。
国交省は飛行高度が千メートル以下になると、最大60~80デシベルの騒音が発生すると予測。80デシベルは「走行中の電車内の音」に相当する。
このため、着陸に向けた進入角度を3・0度から3・5度に変更。羽田空港までの飛行高度を上げることで、騒音をなるべく軽減させようとしている。
ただこれに対しては、羽田プロジェクトの会見に同席した元日航機長の杉江弘さんが「世界的にもほとんど例がない急な角度。操縦の難度が増す」と指摘している。国交省は「安全性に問題はない」との立場を示し、昨年から防音工事の助成制度を拡充し、住民側の理解を求めている。
8月末には小型機を飛ばし、空港設備の点検も始める。来年1月末以降は、実際に旅客機による試験飛行も予定されている。
国際空港間の都市間競争が激しくなる中、首都圏空港の機能強化は欠かせない。大阪(伊丹)空港や福岡空港も市街地に近接しており、国は他の空港の事例を参考に住民の理解を図りながら、今後の対応策を練る方針という。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース